教育講演1

腰痛予防に対する理学療法士の役割

~腰痛のメカニズムと予防のためのアプローチ~

講 師:佐藤友則 氏

(東北労災病院治療就労両立支援センター)

 本邦における国民生活基礎調査(平成28年度)では、何かしらの症状をもつ有訴者のうち、「腰痛」は男性で第一位、女性では第二位でその生涯有訴率は80%を超えており非常に身近な症状である。また、厚労省が実施した業務上疾病発生状況等調査では「腰痛」は常に一位で、労災疾病のうち約6割を占める。労働者の「腰痛」は本人の問題だけでなく、企業においても生産性の低下に繋がることから見過ごせない問題である。そのため産業保健分野では腰痛予防対策は重点課題の一つに位置づけられている。職場における腰痛の発生要因には、作業要因(作業姿勢や作業動作など)、環境要因(職場環境、勤務体制など)、個人要因(年齢、性別、体格など)の3つが関連するとされてきた。しかし、近年になってこれら3要因に加えて、心理社会的要因(恐怖回避思考など)が「腰痛」の発症および遷延化・予後に大きく関与することが明らかとなった。恐怖回避的思考とは、痛みに対する不安や恐怖感、腰痛に対するネガティブなイメージから過度に大事をとる意識や思考・行動のことである。この思考の問題点は、腰痛を恐れるあまり過度な安静や不活動にはしり、予防や治療に有用な運動習慣を回避してしまうことにある。腰痛予防においては、これら4つの要因に対して適切にアプローチすることが重要となる。産業保健分野では、従来から産業医や保健師、衛生管理者が腰痛予防に対応しているのが実情であり、運動療法の専門家である理学療法士の参入に期待する声も少なくない。

 日本における理学療法は、怪我や病気などにより、心身に障害がある患者への関わりを中心に発展してきた。近年、予防医療分野で働く理学療法士も増えてきたが、労働者を対象に活動する者は僅かである。全国9カ所の主要都市にある労災病院に治療就労両立支援センターが設置され、当センターでは産業医、保健師、管理栄養士とともに理学療法士が労働者の健康管理や疾病予防の業務に従事している。本講演では、労働者に対する腰痛予防マネジメントに必要な知識、および具体的なアプローチについて解説し、産業保健分野での予防の担い手として理学療法士の必要性について提言したい。本講演が皆さんの視野を広げる一つのきっかけ・刺激になれば幸いである。