教育講演2

スポーツ分野における理学療法士の予防的な関わり

~スポーツ傷害と向き合う上で考えておきたいこと~

講 師:田中直樹 

(帝京平成大学健康医療スポーツ学部)

 理学療法士がスポーツに関わる形としては、①病院またはクリニックで関わる、②トレーナーとして関わる、③地域住民への運動指導で関わる、の3点が主なものとして挙げられる。③については運動を通じてQOLを上げる広義のスポーツとしての関わりという点で理学療法士の存在は意義深いが、今回の内容では「競技スポーツにおける傷害予防」という部分に限定して話を進めたい。

 ①病院またはクリニックにおいてスポーツ活動時に受傷した選手が受診した場合、もしくは受傷機転はスポーツ活動でなくとも患者がスポーツへの復帰を目指す場合であると思われる。この場合の前者における「予防」は「再発予防」の意味合いが強い。「前十字靭帯再建術後の患者の再断裂を予防する」「投球障害肩患者の疼痛の再発生を予防する」といった場合である。この場合は、一度は受傷または疼痛等が発生した患者の患部に医学的な修復や改善が認められた後、もしくは修復や改善を待つ期間と並行して対象となる動作に必要な機能を獲得または再獲得させることが一旦の主眼となる。その後目的とする競技動作や受傷機転となった動作に近い負荷・スピード・場面を想定した動きの中で再獲得した機能が十分に発揮できているかを判断する。しかし院内での介入という限定した設定で出来ることの限界やフィールドへ部分復帰していく強度に関する研究は今後も発展させていく必要がある。

 チームトレーナーとしての傷害予防では、初発の傷害の予防も必要とされる。スポーツ傷害の原因は内的要因(筋力・可動域・体組成・体力など)と外的要因(気候・サーフェス・用具など)に分けられ、我々理学療法士はおもに解剖学・生理学・バイオメカニクスの観点から内的要因に対する介入を中心に担う。しかし実際には内的要因と外的要因は絡み合い、複雑な構造である。W van Mechelen(1992)が報告したスポーツ傷害予防における4つのステップでは、A.発生率や重症度の認識、B.傷害の原因やメカニズムの確率、C.原因に対しての予防的介入 D.効果の検証としており、傷害発生時の詳細(時間・場所・気候・プレー内容・その他)について収集し分析することも重要である。ウォーミングアップやストレッチについては、筋の機能を向上させることは実証されているがウォーミングアップやストレッチが普及しても肉離れ等の発生件数が減らないことなど数十年に渡り解明されていないものも多くある。

 これらのように多くの問題点が残るスポーツの傷害予防について焦点を定めた調査・研究が望まれる。