<大会長基調講演>

経営的視点から予防を考える=PTの未来をmanagementする

講師:渡邉 好孝  氏

医療法人社団光友会、一般社団法人宮城県理学療法士会会長

  「治療医学」に対して「予防医学」があり、一次予防、二次予防、三次予防に分類されていることは周知のとおりです。歴史的に理学療法士(PT)は、再発予防等の三次予防での後療法的関わりを主とするリハビリテーション(リハ)の中で「相対的医行為(診療の補助)」を行なってきました。2000年の介護保険制度施行後の2013年に厚生労働省医政局は“理学療法士の名称の使用等について”(通知)の中で「介護予防事業等において、診療の補助に該当しない範囲の業務を行なうことがあるときは、医師の指示は不要」と示しました。これを機に、健康推進のための一次予防への関わりを通して、二次予防につなぐ役割も持てたと思います。

 「予防医学」は、疾病予防、障害予防、寿命の延長、身体的・精神的健康の増進等を目的としています。これからのPTは、社会保障費用等の削減や、人々のライフステージを“健康”で支える活動にも期待される存在となりました。

予防から見えてくる理学療法の未来を共につくるための基本は、国際障害分類(ICF)の目的である“生きることの全体像”を理解することが大切です。個人が健康に生きていくための生活機能とその背景因子を関連職種と共に分析し、予防法と対処法を明示できるPTが求められます。

  人生100年時代は、誰もが末永く健康に活躍できる社会を作るため、社会全体で予防と健康づくりを拡大することを目指しています。「健康」は、誰もが望むものです。ですから、当然「健康」に関する市場は活気づき、健康産業に新規参入する業種は増加し、業態も多様化してきます。

 

 「市場経済」は、お金を払ってモノやサービスを手に入れたい「需要」と、モノやサービスを提供することで利益を得ようとする「供給」から成り立っています。「需要」と「供給」が一致しないときは「価格」の変化が生じます。モノやサービスが足りないと「価格」が上がり、モノやサービスが余れば「価格」が下がることで、需要と供給のアンバランスは解消されます。(例えば2020年の春、私たち医療者からの需要に対して、中国製の医療用マスクの供給が不足し、価格が大変高騰する事態を招いたことは記憶に新しいと思います)

また「資本主義」とは、自由に競争により利益を追求して経済活動を行なえば、結果として社会全体の利益も増大していくという考え方に立脚しています。

 「資本」とは「生産手段、あるいは元手となるもの」であり、別の言い方をすれば「価値を生む仕組み」のことです。世の中には、様々なモノやサービスが存在しますが、これらを生み出しているものはすべて「資本」です。そして、皆さん自身も「資本」の一つです。仕事を通して、他の人や社会に対して価値を生産しています。

 

  これまでのPTは、主に価格競争の存在しない国の制度ビジネスの下で守られた業務を行なってきました。そのことで、市場での生き残りをかけた生存競争や共進化をすることに疎い面があったと思います。まもなくPTの需要と供給のバランスは崩れます。供給過多になれば、市場はどう動くでしょうか。また、PT間でも何らかの生存競争が繰り広げられるでしょう。これからの時代は他業種や同業者との競合激化が勃発しても不思議ではありません。  

  PTと理学療法の質を常に高め、競争の質を高めておけば、強い他者と共に進化し共進化ができます。これからの時代は、理学療法のprofessionalとしての高付加価値化、生涯にわたる資質向上、常に学び続ける向学心、豊かな人間性(共感力・思考力・判断力・表現力等)の涵養に努めることが、なお一層求められます。PTは組織立って繁栄に向かう行動を起こさなければ、個人も組織も、さらには理学療法も、新自由主義の格差社会の中に埋没してしまいます。

 

  競争社会で存続し繁栄するための一義は「独自能力」を持っていることです。すなわち、社会の中で、なくてはならない絶対的な存在です。市場全体を見渡して、PTが提供する理学療法の価値を陳腐化させないためのmanagementをすることが大切になります。

人が生きる資源は「健康」です。未来をつくる資源は「経営」です。どちらも「人」が主役です。その目的は「幸せの追求」になります。そのため、成果を上げる道具としてのmanagementが必要になります。

  すでに起こっているPTの未来に対して、経営的視点から予防をお伝えしたいと考えています。