<教育講演2>

運動器理学療法における超音波エコー検査の活用

~適切な治療から予防へと繋ぐために~

講師:平山 和哉 氏

ー東北文化学園大学

 超音波診断装置(以下,エコー)は1950年代に実用化され,その後心臓や甲状腺,乳腺,産科などの領域で発展してきた。一方で運動器(整形外科)領域ではX線やMRI・CTといったモダリティに押され,長らく日の目を見なかった。ところが2000年代に入り高周波リニアプローブの進化に伴って,筋,骨,靭帯などの表在組織に対しても鮮明な画像が得られるようになり,運動器領域への応用が盛んになった。

 エコーは低コストで被爆がなく,リアルタイムかつ短時間に軟部組織の観察が可能であり,機種によっては持ち運びが容易である,などの利点がある。医師にとっては診断をしながら治療を行う(エコーガイド下インターベンション)ことで,診療時間の短縮と患者満足度向上に大きく寄与する。

 当然,本邦の理学療法士に診断は不可能であるため,超音波“評価”装置あるいは“観察”装置としての使用が前提となり,診療報酬は算定できない。医療機関においては,あくまでも医師との信頼関係の中で適切な使い方をする必要がある。現時点で,運動器理学療法領域におけるエコーの活用は①体表解剖学や触診の学習ツールとしての活用と②機能評価の補助としての活用(筋厚,筋輝度,組織の滑走性評価等)の2つに分類される。エコーはこれらの活用方法によって,多職種の共通言語としての大きな可能性を秘めていると考えている。

例えば,理学療法士が肩関節可動域制限の原因因子を推論する際,これまでは種々の機能評価から推論する,あるいは触診の指先の感覚によって探るしかなかった。前者はともかく,後者のようなartの要素が強い評価は,他職種にとっては容易に理解されるものではない。しかし,エコーという共通言語を使用することで理学療法士による評価や治療を可視化し,医師など多職種とのスムーズな連携が可能になると考えている。

 本学会のテーマは予防であるが,現時点で予防を目的としたエコーの活用についてのエビデンスは少ない。骨格筋の量的・質的評価として有用であることは証明されつつあるが,はたしてエコーによる評価が効果的な予防介入に繋がるかどうかは明らかではない。しかしながら,理学療法を三次予防(現疾患の再発予防)として捉えると,エコーを併用した機能評価を基に適切な治療を行い,機能改善を目指すことも十分に予防に寄与するものと考える。

 本講演ではエコーを使用する上での基礎知識,実際の臨床現場での活用方法について紹介する。本講演によって宮城県内にもエコーに興味を持つ理学療法士が少しでも増えることを期待している。