<特別講演>

予防を射程に入れた理学療法モデル

〜ICFをこのまま使い続けていいのか〜

講師:藤澤 宏幸 氏

ー東北文化学園大学大学院

 

 多死社会から人口減少社会へ、時代は理学療法に新しい価値観を求めている。治療学からリハビリテーションへと幅をひろげ、人口減少時代にはどのような新たなステージが待っているのだろうか。幼児から学童期、中等教育、高等教育を経て成人に至り、死にゆく存在として最後の人生を送る。一人一人の人生に光をあてる。それはこれまでもやってきた。しかし、健康の意味を時代とともに捉えなおし、対象者が本当に自分らしく生を全うすることに向き合ってきただろうか。真価が問われている。

 次の時代のキーワードの一つは予防だろう。しかし、何のために、何を予防するのか。何の哲学もなしに、時代の波に乗ることだけを考えていてよいのだろうか。2001年にInternational Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)がInternational Classification of impairments, disabilities, and Handicaps(ICIDH)の改訂版として承認され、専門職の共通言語としてリハビリテーション医療において普及してから、理学療法士はICIDHをICFに読み替えて用いてきた。ICFにおける生活機能モデルの本来の意味を理解して臨床で活用している理学療法士がどれだけいるだろうか。健康状態を疾病・変調として定義してよいのだろうか。そもそも世界保健機関の定義と矛盾しているという疑問は湧かないのであろうか。逆に私の疑問は絶えない。

ICIDHは因果モデルであり、因果性とは二つの出来事が原因と結果で結びつき、そこに順序性が認められることである。理学療法士が治療プログラムを立案するときには、因果性を考慮している場合が多いが、そうであるならば生活機能モデルの相互作用をどのように理解して、理学療法モデルとして活用しているのか、容易には想像できない。ここで、私はあらためて「皆さんは生活機能モデルを理学療法モデルとして使い続けるのですか?」と問いたい。

 ICFは専門職間の共通言語であり、それは使い方次第で大変有用なものである。しかし、理学療法プログラムを考えるうえで、本当に我々の思考を整理できるモデルであるのかは別問題である。理学療法士は運動行動を診る専門職であり、運動-動作-行為の階層性に基づいて日常動作やスポーツ動作の再建を試みる。そのような自然な思考から、私は運動行動に基づいた行動制約モデルを提案してきた。このモデルには、先ほどキーワードとしてあげた“予防”についても考え方を組み込んでいる。理学療法士が次の時代にも社会から必要とされるには、自前の服が必要である。その意味で、行動制約モデルと生活機能モデルの関係性を明確にし、自律した専門職としての立ち位置を表明することが肝要であろう。

 本講演では、障害モデルの変遷、ICFの思想を振り返ったうえで、行動制約モデルについて皆さんと情報を共有し、議論してみたい。