連携症例検討会1
回復遅延型ギラン・バレー症候群に対するICUから回復期リハビリテーション病棟に及ぶ介入報告
【座長】
片山 望 氏 (西多賀病院)
【シンポジスト】
急性期( ICU )担当:
鈴木 翔 氏
(仙台医療センター)
急性期(一般)担当:
相澤 智咲 氏
(仙台医療センター)
【key words】
・回復遅延型ギランバレー症候群
・長期介入
・在宅支援
【はじめに】
ギラン・バレー症候群(GBS)は、一般的に予後良好とされているが、予後不良因子を持った回復遅延例も報告されている。人工呼吸器管理を要する重症患者では、死亡リスクが増加し、機能予後については、発症6か月時点で独歩不能であるのは18%、発症1年以降にも重度の運動機能障害が残存するのは13.9%と報告されており、重症例の長期介入の必要性が示されている。しかし、急性期から回復期までの長期的な理学療法介入経過の報告は少ない。今回、回復遅延型GBSの急性期病院から回復期病院までの長期経過を経て自宅退院に至った症例を経験し、長期介入の必要性を示すことができたので報告する。
【症例紹介】
ADL自立した50歳代男性。身長182cm、体重90kg、BMI 27.2kg/m2。仕事はステンレス工場での荷物運搬作業、兼業農家。既往歴は腰椎骨折、腰椎椎間板ヘルニア、高脂血症、不整脈(右脚ブロック)。現病歴は発熱、下痢症状あり近医にて胃腸炎と診断され自宅にて療養中に四肢のしびれや筋力低下を認め歩行困難、構音障害を生じ当院へ救急搬送となった。
【倫理的配慮】
本報告は学会発表を行うにあたりヘルシンキ宣言に基づき、対象者の保護には十分留意し、本人へ書面にて十分説明し同意を得た。
呼吸不全による気管挿管下人工呼吸器管理と咳嗽機能低下に対しMI-Eの使用により抜管に至った理学療法経験
(ICUにおける理学療法介入)
鈴木 翔 1), 相澤 智咲1)
1)NHO仙台医療センター
【理学療法評価(第4病日)・臨床判断】
呼吸不全により気管挿管下人工呼吸器管理中で、咳嗽機能低下により自己喀痰喀出困難(気管挿管下の咳のピークフロー:CPF 80L/min)。球麻痺、四肢麻痺が認められ、MRC sum scoreは16/60点、握力両側0kg、腱反射消失。SOFA score 3点、Barthel index 0点、集中治療室活動度スケール 3、FSS-ICU 3点。Hughesらの機能的重症度分類 Grade 5(補助換気が必要)、入院時modified EGOS 4点(7日目11点)。Hughesらの機能的重症度分類やmodified EGOSより重症GBSが予測され、ICU期では人工呼吸器の離脱を目標に早期離床、気道クリアランスを中心に介入した。
【経過】
第3病日に呼吸不全増悪、ICUへ入室し気管挿管下人工呼吸器管理。第4病日より理学療法開始され離床、咳嗽機能低下による気道クリアランス不良のため機械による咳介助(MI-E)を導入。喀痰貯留や自己喀痰喀出困難な状態続くが、MI-Eにより気道クリアランスを維持。換気能改善しウィーニングが進み、第17病日に抜管。抜管後CPFは100L/minで自己喀痰喀出能力不十分、また嚥下障害による唾液誤嚥により気道への垂れ込みを認めたが、MI-Eにて気道クリアランスを実施。離床とMI-Eを継続し再挿管を回避。第43病日にICUを退室。ICU退室時のCPFは200L/min、MRC sum scoreは21/60点で移乗や立位は重度介助を要した。
【考察】
急性呼吸不全による気管挿管下人工呼吸器管理下では呼吸器合併症のリスクが増加し(志⾺伸朗. 2010)、抜管時の気道クリアランスの低下は再挿管のリスクとなる(⼈⼯呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル)。MI-Eは咳嗽機能低下患者の気道クリアランスに有効(Marcio Luiz, et al. 2018)で、抜管の一助となり(Bach JR, et al.2010)、再挿管の回避に効果的である(Gonçalves MR, et al. 2012)。気管挿管下人工呼吸器管理中からの離床とMI-Eによる気道クリアランスにより、気管切開を回避し抜管、再挿管を予防できたと考える
理学療法介入により段階的なADL改善に繋がった回復遅延型GBSの一例(一般急性期病棟での理学療法)
相澤 智咲1), 鈴木 翔 1)
1)NHO仙台医療センター
【理学療法評価(第44病日)・臨床判断】
HughesらのGBS重症度分類Grade4(ベッド上)、MRC sum score21点、四肢痺れ(左有意に遠位にかけて痺れ増強)、CPF:200L/min、自己喀痰喀出困難。基本動作は重介助~全介助、BI:0点。Walgaardらのmodified EGOSではICU期において重症GBSが予測され、6か月後の独歩不能率は約50%程度と推測。また、入院から2か月後時点で介助量、握力は改善得られず、間嶋らの予後推定基準では回復遅延群と推測され、長期的なリハビリが必要と推定された。急性期一般病棟では回復期病院への転院を見据え、ADL拡大を目的に、運動耐用能改善や筋活動の賦活、呼吸器合併症予防に着目し介入した。
【経過】
第43病日に一般病棟へ転棟。介入初期は介助量が多く、2人介助で座位、立位練習実施。徐々に座位介助量軽減するも、立位以上の動作では易疲労性強く心拍数上昇。排痰では姿勢や疲労度により、喀痰の喀出は安定せず吸引を併用。第58病日より立位練習の回数増加や介助量軽減あり、ステッピング練習開始。第74病日より1人介助で起立可能となり、第77病日より両側KAFO使用にて2人介助で歩行練習開始し、段階的な距離の延長を試みるも易疲労性強く難渋。第106病日より自己喀痰喀出可能となり、病棟と連携しリハビリ時間以外での離床拡大。徐々に歩行後の疲労軽減し、第140病日には介助下にて連続20m程度歩行可能。しかし、実用的な歩行には至らず車椅子自走練習を併用。<最終評価(第174病日)>HughesらのGBS重症度分類Grade4(車椅子)、MRC sum score28点、CPF:300L/min、基本動作は端坐位監視、立位保持軽介助、起立・起居・歩行重~全介助、BI:20点(食事5,排便・排尿5,移乗5)。第175病日に回復期病院へ転院。
【考察】
回復遅延例において、長期的な理学療法介入はエビデンスが高く、特に入院患者に対する歩行トレーニングが有効であるという報告やGBSの治療として早期からの理学療法介入が内科的治療の最大限の効果を引き上げるという報告がある。今回、理学療法に加え、多職種連携を図り離床時間の拡大を促進し包括的な介入ができた。本症例は回復遅延型重症GBSを呈したが、内科的治療に併せて、理学療法の継続や段階的な運動負荷量の増加、気道クリアランスの維持によって運動耐容能や身体機能を改善し、ADLの拡大に繋がったと考える。
回復期リハビリテーション病棟における回復遅延型GBSの一症例に対する理学療法の経験
中塩泰成 1), 伊藤光 1), 菊池隼 1), 榊望 1)
1)医療法人社団 脳健会 仙台リハビリテーション病院
【追加症例情報】
175病日,回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)である当院に転院となった.妻,二人の小学生との四人暮らしである.転院時のhopeは「家に帰りたい,歩けるようになりたい.」であった.体重は66.8kgであった.
【理学療法評価・臨床判断】
四肢筋力はMRC sum scoreで28/60点,握力は両側0kgであった.起き上がり,移乗,車椅子駆動,起立,歩行,セルフケアは全介助を要し,食事は胃瘻による経管栄養であった.主介護者である妻は小柄であり,家庭におけるマンパワーは乏しいため,大きな介護負担が生じることが懸念された.多職種協業で行われたカンファレンスでは,在宅復帰に向けた達成目標を起き上がり・移乗が見守りとなること,排泄管理が行えること,食事動作が行えることの順で優先順位を位置付けた.歩行再建に関しては,経過を追って検討することとした.本報告の目的は,当院での経過を3期に分け,各時期における課題と目標,治療方針を報告することである.
【経過】
第1期は,在宅復帰に必要不可欠となる起き上がりと移乗の介助量軽減に着目し介入した時期である. 190病日に起き上がりとベッドの移乗が見守りに至った.231病日に本人・家族の意向により,車椅子を移動手段とした自宅退院の方針が決定した.第2期は,本人のQOLを満たすための多様な移乗動作の獲得に着目して介入した時期である. 移乗練習は,排泄,入浴,家族での外出を想定し実施した. 238病日に三食経口摂取を開始した.272病日に起き上がり,ベッドの移乗,車椅子駆動が自立に至り,289病日に初回外泊訓練を実施した.第3期は,自宅内移動を想定した歩行練習に移行した時期である. 第1期及び第2期においては,下肢筋力強化を目的するKAFOを用いた全介助歩行練習を実施していたが,第3期では四点杖を用いた軽介助歩行練習へ移行した.330病日にトイレでの排泄が自立,入浴椅子及びワンボックスカーの移乗が見守りに至った.340病日に自宅退院に至り,当院外来リハビリへ移行した.現在,歩行練習は歩行器を用いた接触介助歩行へ移行し,長期目標を自宅内の見守り歩行としている.
【考察】
回復遅延型GBSでは,長期介入の必要性や高強度の歩行練習の有効性が報告されているが,各症例の機能予後は多岐にわたる. 従って,入院期間に上限のある回リハ病棟においては,在宅復帰を保障した上で,機能予後の改善に向けた介入計画を立案することが重要であると思われる.本症例においては,発症から1年を迎える現在も,緩やかな歩行能力の改善が続いている.今回の経験を通して,改めて回復遅延型GBSにおける長期理学療法介入の有効性が示された.
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から