理学療法士の新たな働き方
ーキャリアデザインの多様性ー
【司会】石島 孝樹 氏(株式会社ハートリア)
【講師】
内野 翔太 氏
(株式会社リハサク)
【企業で活躍する理学療法士】
近年、医療機関や介護福祉施設以外で活躍している理学療法士も増えてきた。その背景の1つに、テクノロジーが発展したことで、様々な立場から質の高い医療を提供することが可能になったことも影響している。
リハサクは、リハビリテーションとテクノロジーを融合させた、運動療法クラウドシステムを提供している。多くの理学療法士は、運動療法の重要性を理解しているが、日々の業務の中で、運動療法を十分に提供できない場面も多い。加えて、患者が、自宅で運動を実施しようとしても、指導してもらったやり方を忘れてしまうこともある。そこで、テクノロジーを駆使することにより、理学療法士の運動指導を効率化したり、患者の症状に合わせて運動メニューを選択することが容易となる。さらに、患者は自宅でも提供された運動を動画で確認しながら実施できる。
リハサクでは、このような現場での課題を解決するために、多くの理学療法士出身者が在籍している。私は、カスタマーサクセス(以下CS)という部署に所属し、リハサクを導入したユーザーが、適切に運動療法を提供できるようにサポートしている。CSでは、定期的にオンラインミーティングを行い、課題解決に向けた施策の提案なども行っている。さらに、症例や運動療法についてサポートすることもあるため、これまでの理学療法士としての経験が非常に役立っている。
現在、リハサクには、デジタルヘルス企業の出身者やエンジニアなど、様々な経験と実績を兼ね揃えたメンバーが在籍している。日々の業務では、他チームとコミュニケーションを密にとって取り組むことが求められる。そのため、理学療法に関する知識以上に、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力などのスキルが必要であると感じている。
今回は、企業で働く経験をもとに、理学療法士のキャリアの多様性について参加者の皆さんと一緒に考えていきたい。
【講師】
町田 陽一朗 氏
(あをによしリハビリ脳神経クリニック)
【保険外診療で活躍する理学療法士】
近年、保険外診療でサービスを提供する施設が増えている。この背景には医療費などの社会保障給付費の増加や現行の保険制度では思ったようにリハビリを受けられない「リハビリ難民」の存在がある。保険外診療はこうした方々の受け皿としての需要があり、様々な形でサービスを提供している。
私は医療機関に勤務しているため、今回は医療機関で行っている保険外診療を中心に紹介する。医療機関で保険外診療を行うメリットとしては、医師や看護師と連携が取れるため急変時などの対応がしやすいこと、装具処方などの手続きが行いやすいことなどがある。また、利用者としても、医療機関という安心感や必要に応じて診療、検査などを受けることができるといったメリットがある。
それに加え、保険外診療のメリットは、期間などの制約を受けることなくリハビリテーションに取り組めることである。そのため、利用者は満足するまでリハビリテーションを継続することができる。その反面、保険適応とならないため、費用負担が大きくなってしまうことや、医師との連携や安全管理などに対して指摘を受けている現状もある。
実際に行っている介入内容としては、保険外診療を利用する方の多くは生活期ということもあり、その方の生活や趣味に関わること、歩行に関すること、装具に関することなど、様々な希望に対し介入している。そしてこれは「その人らしさ」に近い部分でもあり、入院中とは異なるやりがいでもある。
保険外診療を提供する上で必要なこととして、法律や制度の理解が必要と考える。我々は理学療法士及び作業療法士法や医師法、理学療法士ガイドラインなど様々な法令の中で働いており、提供するサービスがどういった位置づけなのかを理解する必要がある。
本シンポジウムのテーマである「新たな働き方」ということで考えると、今後さらに需要が増える思われるため、さらに広がっていく分野なのではないかと感じている。
【講師】
阿部 功 氏
(総合南東北病院)
【臨床で働きながら予防分野で活動する理学療法士】
私の理学療法士としての働き方は、
① 回復期リハビリテーション病棟のスタッフの一員として、患者に直接的な理学療法を実施する
② いわゆる中間管理職として、リハビリテーション科の運営を支える
③ 病院職員として、自治体の主導する地域ケア会議や地域リハビリテーション活動支援事業等に携わる
④ 県士会員として、自治体主導の事業に加えて老人クラブ、企業等の主催する事業に携わる
⑤ 県士会理事として、各種会議に出席する
…この5本柱から構成されています。
厚生労働省が作成しているキャリアデザイン支援ツール「ジョブ・カード」を見ると、経歴を振り返り、自身の価値観を確認し、強みと弱みを把握し、周囲からの期待を考え、プライベートを整理した後、この先のことについて考える、という構成になっています。
私が今の働き方を、10年前にイメージしていたか、望んでいたかといえば、否です。ジョブ・カードに当てはめて振り返ると、「理学療法士として社会貢献したい」という価値観、「つぶしが効く」という強み、そしてその時々の周囲からの要望に応えてきた経歴を持って、今の状況があるのだと思います。
多様な理学療法の場面を見たいと選んだ就職先、要支援者の通リハ担当となり、困って飛び込んだ県士会活動、震災後の支援活動を機に誘いを受けた理事就任…未来を描いて行動することは難しいですが、節目では自身の価値観を大切に決断することが大切なのではないかと感じます。
本大会では、私の経験を紹介しつつ、現況である「臨床で働きながら予防分野で活動する」働き方について、皆さんの「よりよく働いていくため」のNudgeとなるようお話します。
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