教育講演1


健康の大切さをわかっているのに実践しない人を動かすには?

 【司会】渡邉 好孝 氏(医療法人社団光友会/宮城県理学療法士会会長) 

講師】

 竹林 正樹 氏

(青森大学・客員教授)

(演者E-mail1691001◯ms.auhw.ac.jp

※○を@に変えてください。

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(DLは講演直後から可能)

【ナッジで人を動かす】 

 本演題では「健康の大切さをわかっているのに実践しない人を動かすには?」をテーマに、ナッジの基本から実践までを具体例を交えながら体系的に紹介する。なお、スライドはQRコード(図1)または「竹林正樹 オフィシャル」で検索し「資料DL」のページからDL可能である。

 

 大半の人は認知バイアス(系統的な認知の歪み)を持つため、知識と行動の間にズレが生じやすい。例えば、喫煙者はパッケージの警告表示から喫煙リスクに関する正しい情報を受け取っている。しかし、楽観性バイアス(「喫煙リスクはそんなにひどいものではないだろう」と楽観視する心理)や現在バイアス(「別に今、禁煙しなくてもよい」と考える心理)が働くと、禁煙を先送りする。

 このため、ナッジのように認知バイアスに沿った介入が求められる。ナッジは「選択を禁じることも経済的なインセンティブを大きく変えることもなく人々の行動を予測可能な形で変える選択設計のあらゆる要素」を意味する。認知バイアスの特性を踏まえているからこそ、「行動を予測可能」になる。

 2017年にナッジ提唱者のR.セイラーがノーベル経済学賞を受賞したこともあり、各国ではナッジ活用が進められている。日本でも厚生労働省が健康寿命延伸プランでナッジ活用を推奨し、がん検診受診促進にナッジのEAST枠組み(Easy:簡単に、Attractive:印象的に、Social:社会的に、Timely:タイムリーに)を推奨している。 

 ただし、ナッジは万能ではない。ナッジは最初の一歩を踏み出すには向いているが、行動定着への効果は未知数である。行動定着にはヘルスリテラシー向上によるブーストが求められる。ナッジは「そっと後押し」、ブーストは「ぐっと加速する」といったイメージで、両者の組み合わせによって、実効性のある健康支援が実現できると期待される。