教育講演


脳卒中患者の呼吸機能障害と歩行不安定性

 

講師】

 照井 佳乃 氏(秋田大学大学院)

 脳卒中患者の多くは呼吸機能障害を有するといわれており、上肢や肩甲帯の麻痺および胸郭可動性の低下によって拘束性換気障害が生じやすいといわれている。また、脳卒中後の片麻痺患者の呼吸筋力は同年代の健常者と比べて低下しているといわれている。呼吸筋力の低下は呼吸パターンの変化や肺活量の減少に影響を及ぼす。従来、脳卒中片麻痺患者に対する呼吸理学療法は誤嚥性肺炎予防のために行われることが多かった。脳卒中を発症すると嚥下障害を生じやすく、食事、水分、唾液を誤嚥する可能性が高くなる。肺活量を維持・改善し、咳嗽力を高めることで誤嚥性肺炎を防ぐために呼吸への介入が行われてきた。近年、脳卒中患者に呼吸筋トレーニングを実施し、呼吸機能・呼吸筋力と運動耐容能との関連を検討する研究が行われている。脳卒中患者を対象として呼吸筋トレーニングを行った群は、呼吸筋トレーニングを行わなかった群と比較して有意に呼吸筋力が増強し、6分間歩行試験の距離も延長したとの報告がある。呼吸筋トレーニングが歩行自立を目指す脳卒中患者の歩行能力に対して有用である可能性を示していると考えられる。呼吸筋トレーニングはトレーニングデバイスを口でくわえて、呼吸にかかる負荷量をデバイスで調節しながら呼気・吸気を繰り返す運動であり、座位で実施可能である。そのため、脳卒中片麻痺患者にとって転倒の危険にさらされず実施できる自主トレーニングとして呼吸筋トレーニングは有用と思われるため、今後も検証されることが望まれる。

 我々は脳卒中患者の呼吸機能および歩行パラメータを経時的に測定した。その結果、歩行が自立している患者であっても、先行研究と同様に呼吸筋力が低下している症例が多く存在した。また、加速度計や荷重計を用いて測定した歩行パラメータと呼吸筋力に有意な関連があることを確認した。本講演では、脳卒中患者の呼吸機能・呼吸筋力と歩行能力の関連について当方での取り組みを交えながらご紹介したい。