大会長挨拶


第23回宮城県理学療法学術大会

大会長  渡邉 好孝

(医療法人社団光友会、一般社団法人宮城県理学療法士会会長)

「予防」とは、未来に予想される好ましくない事態が生じないようにする事前の取り組みです。生きることへの憂いや漠然とした不安、迫りくる恐怖に備えるために、人類は遥か古の時代から過去に学び、これまで発展してきました。 

すべての生命は生きることを欲しています。ヒト科以外の自然界の動物は、無駄な行動や欲望をほとんど持たず、それぞれの生命時間と空間の中で自然環境に受け身で適応し進化しています。そして、命を繋ぐ営みができなくなれば生の終焉を迎えるのが一般的です。

ヒトは、人間になって道具を使い、人間が望む状況に自然環境を改変し続けています。自然への畏怖の念を抱き、自然との調和と適応の大切さを知りつつも、自由で特別な時間・空間の“間(ま)”で自在に生きることを欲しています。二律背反しながら生存のために過剰なエネルギーを使うことは、同時にリスクを背負うことになりますが、それが生きる源泉にもなっていると思います。

ヒトは、人間にとって都合のよい幸せと自由を得るために、自分時間、自分空間づくりに様々な手段を講じて適応しようとするので、自然界では痴れ者なのかもしれません。

「自由」とは、未来を創造する可能性があることですが、そこには当然、生命のリスクも存在します。現状から過去を見直し、未来を見越す情勢分析力がなければ安心・安全は得られません。

それ故に、人間は“自然界の時間”や“空間の間(ま)”、そして“人間(ひとかん)の間(ま)”で、よりよく幸せに生きていくために、“みえないコト(metaphysics:形而上、抽象的)”や、“みえるモノ(physics:形而下、物理的)”の根本的な本質を追究してきました。哲学、科学と芸術、自然と必然と当然、原因と結果、内容と形式、などなど。人類は、ヒトとして、人間とし、生きる命の間(ま)の目的と課題に取り組んでいるのだと思います。

未来で唯一わかっているのは、今とは確実に異なっていることです。そして時間は逆流せずに常に過去から未来へ、コト・モノを流しています。

「予防」への関わりで、理学療法士(Physical Therapist)に必要なことは、Health literacyとLiberal artsです。そして、自身の知識や技術・情熱・考え方を陳腐化させないために、自己修養を惜しまないこともProfessionalとしての「予防」です。

人生100年時代を迎えようとしています。生命と時間との関係の中で、人生を前向きに引っ張る「予防」に理学療法士として力を発揮し続けましょう。