教育講演3

糖尿病に対する新たな評価・治療方法を共創するー理学療法士が行うべきことー


井垣 誠 先生

公立豊岡病院組合立豊岡病院

 近年、糖尿病の治療は目覚ましく進歩している。特に薬物療法ではDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬などが登場し、低血糖のリスクが低くなった糖尿病患者は多いものと推測する。また、糖尿病患者の血糖変動を把握する手段において、血糖自己測定(SMBG)の問題を補う持続血糖モニター(CGM)の普及は低血糖、高血糖の状況を把握でき、厳密な血糖マネジメントを導いている。運動療法は糖尿病患者にとって有効であることに疑いの余地はないが、低血糖の出現を危惧して消極的になりがちな症例もある。薬物療法および血糖変動の評価の進歩によって運動時の安全性が高まり、積極的な運動療法が可能になったと言える。これらの進歩に対して理学療法士の介入も追随していく必要がある。

 ここ10年間における運動療法のトピックスの1つとして、生活活動としての身体活動量の増加や座位行動の短縮が重要視されたことが挙げられる。20分や30分の持久運動でなくても、1日の中で細切れに動くほうが血糖値改善に有効であることが示されている。この介入を成功させるためには、1日の具体的な行動パターンを提案し、それをモニタリングする方法も確立する必要がある。

 一方、糖尿病患者の高齢化に伴いサルコペニアを有する症例は多く、またSGLT2阻害薬の使用や糖尿病性腎症の病態は、筋肉量の減少を来たす可能性がある。血糖マネジメントおよびADLに関与する筋力・筋肉量を適切に評価すること、そしてレジスタンス運動の体系化は理学療法士が行っていくべきである。さらに令和4年度より運動器リハビリテーション料として算定が可能になった糖尿病足病変患者に対する介入は、理学療法士として患者の歩行能力を守るうえで重要な取り組みになる。糖尿病足病変は糖尿病性神経障害の合併が多いことを踏まえ、評価・治療の内容、アウトカムについて共創し標準化させることが急務である。