教育講演5
脳卒中者の姿勢障害と誠実に向き合う―これまでとこれから
脳血管障害による片麻痺症例の理学療法において、さまざまな姿勢障害の評価と治療は重要な課題である。本教育講演では、片麻痺症例の座位に焦点を当てて、姿勢障害とバランスに関する評価法と治療アプローチについて考察する。
座位バランスについての評価では、これまで通常水平面上での静的な姿勢観察が主として行われてきたが、筆者らの研究室では様々な条件で動的座位バランス反応を検討してきた。背もたれなしの座位保持が困難な比較的重症例では、背面と側面にシート状の壁を設置して前額面で回転する座位装置を開発することで傾斜姿勢からの立ち直り反応を分析し報告してきた。すなわち非麻痺側傾斜姿勢から麻痺側へ立ち直る反応と、逆の条件から非麻痺側へ立ち直る反応を比較検討することで症例のバランス能力を評価することが可能である。さらに自力座位が可能な症例では、左右に揺れるバランスボード上で姿勢を垂直位に保持できるかという「行動垂直」の姿勢特性と歩行能力との関連性を検討することで機能予後を推測することが可能であることを報告してきた(Gait & Posture, 2009)。
治療アプローチとしては非侵襲的脳刺激(non-invasive brain stimulation, NIBS)、遅延視覚フィードバック(delayed visual feedback, DVF)、支持基底面を傾斜させる操作を取り上げてその効果に言及したい。NIBSでは直流前庭刺激の傾斜面からの立ち直り反応に対する効果と影響について報告する(Neurosci Lett. 2024)。DVFは、座位において圧中心をモニターしながら、実際の圧中心位置からわずかに時間遅延を生成してフィードバックを与える条件でトレーニングする方法であり、このことがどのような影響をもたらすのか報告する(Brain Sci, 2022)。バランストレーニングは支持基底面が水平であることが通常であるが、その基底面を麻痺側が下方になるように傾斜させ、そのうえで座位または立位での体重移動トレーニングが体幹機能などにどのような影響を及ぼすか、さらに重症例の立位での非麻痺側下肢を不安定盤上におき、その条件での起座等のトレーニングの効果(Top Stroke Rehabil,2024)について報告する。
以上のことから対象者の病期、運動麻痺の重症度を考慮しつつ、治療アプローチの効果が施行中または即時的(online effect)か、治療後に現出するか(after effect)ということであると考えられる。さらに、治療の指向性として、バランスを支援する方向(assist)なのか負荷を与える方向(resist)なのか、もまた留意すべき点であろう。
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